(本記事は、木下 たかゆき氏の著書『
不動産投資「勝者のセオリー」』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
キャッシュフローを最大化するには?
不動産投資を成功させる方法はシンプルです。
①物件に融資をつけて、圧倒的に安く買い
②高利回りで賃貸して、キャッシュフロー(以下CF)を貯め
③買ったときより高く売却して、キャピタルゲインを得て
④現金保有高(キャッシュポジション)を上げる
このサイクルを繰り返して、資産規模をどんどん拡大させるだけです。
CFとは何かを、すぐに答えられる方は、意外と多くありません。わかっているようで、正確に答えるのは意外に難しいものです。
それでは改めてCFとは何か、そしてCFを最大化するには何をすべきかを、一緒に考えていきましょう。
まず、CFを定義する最もシンプルな式は、次のとおりです。
CF= 売上−経費
つまり、売上を最大化し、経費を最小化すればCFを最大化できる、ということになります。至極シンプルで当たり前のことですが、この考え方が重要です。
そして、この「売上−経費」を実際の項目に置き換えると、次のようになります。
CF = 家賃収入−(調達金利+元金+各種税金+管理コスト)(+減価償却費)
このように表すと、CFを大きくするために、具体的に「何を増やし」「何を減らせば」いいのかが、よりわかりやすくなったはずです。
大家がコントロールすべき項目に絞った上で、CFをもっと大きくしようとするのであれば、
・家賃収入を上げる
・調達金利を下げる
・管理コストを下げる
ということが、CF最大化の要素になります。
税金は、基本的にコントロールできません。厳密には、固都税(固定資産税+都市計画税)などの各種税金を圧縮する方法もあるのですが、効率を考えるなら、それよりもCFを最大化することにフォーカスすべきです。
保有リスクに注意!
CFを増やすためには、前述したいくつかの他に、次の二点が大切な要素になります。
・元金返済額を少なくする(返済期間を延ばす)
・減価償却費を(最初に)多く取る
これらのメリットとデメリットを、自分が立つステージに合わせてしっかり考えなければなりません。
特に「元金返済額を少なくする」場合ですが、これには注意が必要です。
返済期間を延ばして返済比率を下げた方が、多少金利が高くてもCFが増えるケースが多くなります。
しかし、返済期間を延ばして得られるCFは、あくまで「将来の利益を先取り」しているだけであって、結局のところ、様々なリスクを先送りしているだけだからです。
物件を長期保有することで、将来的にどんなリスクが生まれるのかというと、次のようなものがあります。
・建物の減価
・家賃下落
・空室率の上昇
・大規模も含めた修繕リスクの増大
・残債の減るスピードが遅い(=相場が暴落すると売却しにくくなる)
・CFが残ることで判断基準が鈍る(特に売却タイミングにおいて)
・デッドクロスがくる(税金がCFを上回り、黒字倒産する)
ここを押さえた上で、返済期間を延ばすかどうかを慎重に検討すべきです。
金融機関のスキームによっては、築古の物件でも元利均等返済で金利4.5%、返済期間30年などで買えるケースがあります。
このように返済期間を長く取ることで、無理やりCFを出しているような物件を買った場合、最初の5年間ほどは金利の返済ばかりで、ほとんど元金が減りません。
そうしているうちに、先記のリスク要因によって徐々にCFが出なくなっていきます。そのうち修繕費もかさんできて、ニッチもサッチもいかなくなり破綻寸前に……。
焦って物件を二束三文で売却するも、ほとんど減っていない元金を売却額でカバーできるはずもなく、無担保の借金だけが残るという、最悪のシナリオになることも十分にありえます。
不動産ブームの昨今、CFのみにフォーカスし過ぎる人が多いのですが、きちんとリスクを考えた上で判断することが大切なのです。
返済していない元金部分や、減価償却費を先に多く取ってしまっている分は、物件を売却すると、残債の一括返済や譲渡所得の課税でそっくり跳ね返ってきます。
結局のところ、利益を先に取るか、後に取るかの違いということです。
当然、返済期間が短いほど利息の負担も減るわけで、ある程度の資産規模になったらCFだけにこだわらず、保有リスクにも十分注意すべきです。
目先のCFにとらわれてはいけない
~Aさんからの相談事例~
僕はよく、悩める不動産投資家から相談を受けます。
その中で実際にあったCFについての相談事例を、一つ紹介します。
Aさんは、1年以内にサラリーマンを辞めたいという目標を持っていました。
そこで今、検討している物件があるのだが、買うべきだろうか、と相談にやってきました。
Aさんは既に5棟の物件を所有していて、そのうち2~3棟は、リーマンショック後の良いタイミングに買った物件でした。
脱サラ後の生活基盤を固めていくためにも、今新たに物件を買い、さらにCFを厚くして行きたいという希望を持っていました。
Aさんに物件の概要を聞いてみると、買おうとしていた物件は築40年以上の古いRC造で、表面利回りは10%程度でした。
売値は完全にエンド価格であり、うちの会社で査定すれば、半値~八掛けでないと買わないような物件です。
彼は脱サラ後の生活費をベースに考えていて、この物件を買ったらこれくらいのCFが取れそうか、という視点にのみ、頭を奪われていました。
僕は次に、Aさんが所有している物件や属性資料を見せてもらいました。
そこから判ったのは、所有する現金が1千万を切っていたこと、また、リーマンショック後に買った物件が5千万以上で売れそうだったことです。
そこで僕は、「まずは手持ちの物件を売却し、一時的にキャッシュポジションを上げて行きましょう」とアドバイスをしました。
そうすれば、競売にも入札できるようになりますし、良い物件情報を掴める機会も増えるはずです。つまり、選択肢が増えるのです。
しかし、Aさんは「売却するとCFが減ってしまう……」と難色を示しました。
ううーん、どうしたらいいものか。
正直なところ、その物件では融資づけが厳しく、仮に融資を引けても期間は長く取れません。さらに、修繕リスクも高い割に利回り10%なので、そもそもCFさえまともに出ないような物件なのです。
エンド価格なので、将来的に相場が下がれば売却も難しく、融資する銀行も見つからないはずです。
僕はAさんへ、次の提案をしました。
「ボロ戸建を現金で買って再生し、利回り20~30%で5棟所有すれば、一棟6~7万で貸すとして、月30~40万の収入になります。手堅く生活費のことを考えるのであれば、そういったスタイルの投資をした方が間違いないでしょう。
ボロ戸建なら300万くらいで買えますし、銀行の融資情勢も関係ありません。もちろん、安く買って安く直さないといけませんが、ロットが小さければ良い練習にもなります。どうでしょうか?」
そのように伝えたところ、Aさんはようやく、納得されました。
Aさんのケースにおける問題点とは、何なのでしょうか?
それは、Aさんが「CFを厚くしたい」という一点のみにとらわれすぎていて、次のような大切な視点がすっぽり抜けていることです。
・そもそも買っていい物件なのか
・高値掴みしていないか
・出口はどう考えるのか
・融資はつけられるのか
Aさんは物件購入に関して、業者の言いなりになっていました。
自分の頭で考えることを放棄していたため、業者に「CFが出る良い物件ですよ」と言われると、それを鵜呑みにしてしまうのです。
この話は誰にとっても他人事ではありません。こういった「目先のCFだけにとらわれている」不動産投資家が、初心者に限らず、増えていることを感じています。
他によくあるパターンでは、ある地方銀行のスキームで融資期間を長く取り、無理やりCFを出している物件を高値掴みしてしまうケースがあります。
耐用年数以上のローンを組むことで、表面上はCFが出ているように見えますが、それは単に元金の返済を遅らせ、利益を「先取り」しているに過ぎません。
古い物件を長い融資期間で買う場合は、次のような懸念材料について、しっかりシミュレーションするべきなのです。
・入居率や家賃の下落を踏まえて、5年・10 年先もCFは出せるのか
・修繕リスクは、どの程度見積もっているのか
・売却を考えたとき、その物件に融資してくれる銀行はあるのか
・そしてそのとき、元金はどのくらい減っているのか
不動産に限らず、どんな物事も、一つの側面しか見ていないと失敗する確率が高くなります。
僕は借金はどんどんすべきだと言いましたが、返せる借金でなければ意味がありません。
目先のCFのみにとらわれすぎて、それ以外の視点が抜け落ちてしまわないよう、くれぐれも注意してください。
木下 たかゆき
不動産投資家。1982年生まれ。大阪府和泉市出身。関西学院大学商学部卒業後、求人広告の営業などを経て2010年12月に不動産投資をスタート。問題有りの物件を相場より圧倒的に安く購入して再生する方法で規模を拡大。35才で満室想定家賃約7億円を達成する。トータル売却益も10億円以上ある。 8年間の投資総額は60億円以上。2018年6月時点で住居系マンション、アパートを中心に、オフィスビル、テナントビル、ソシアルビル(スナックビル)など計70棟1200室弱の不動産を所有する。7億円の家賃収入以外に毎年数千万~5億円の売却益があり、現在も資産を拡大中。趣味は旅行とグルメ。毎月、国内外を旅しながら各地の名物を食すことが何よりの楽しみ。
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