家計の見直しを考えた際、「収入を増やすこと」を最初に思い浮かべる人もいるでしょう。しかし、給与や投資で収入を増やすとしても、企業業績や経済状況の先行きを見通すことは難しく、投資には損失を抱えるリスクもあります。
それよりも確実に効果を発揮するのが「支出を減らす」ことです。特に、毎月の固定費を削減できないか見直すことで、少ない労力で無理なく支出を減らすことができます。
住宅ローンの支払額を減らすために考えたい「繰上返済」
毎月の固定費のなかでも大きな金額になりやすい住宅ローンの支払額の削減を考えてみましょう。住宅ローンは借入金額が大きく、支払期間も長期間に渡ります。住宅ローンの支払い金額を削減する手段として、「繰上返済」があります。
住宅ローンの繰上返済の種類は大きくわけて2つ
繰上返済には、毎月の返済額を変えずに残りの期間を短くする「期間短縮型」と、残りの期間を変えずに毎月の返済額を軽減する「返済額軽減型」の2種類があります。
「期間短縮型」の方が利息の軽減効果が高く有利と言われていますが、「返済額軽減型」の方は毎月の返済額が軽減されるため、家計への負担が少ないというメリットもあります。
では、以下の条件で住宅を取得したサラリーマンA氏(35歳)の場合を例にとり、時期や金額、返済回数などを変えながら繰上返済の効果を確認しましょう。
【シミュレーションの前提条件】
・住宅ローン借入金額:5,000万円
・借入金利:1.31% ※2019年2月のフラット35 借入期間21年以上での最低金利
・借入期間:35年
・住宅ローン支払い開始年月:2019年2月
○35年間の総支払額:約3,236万円(うち、利息:約1,236万円)
○毎月の支払額:約14.8万円
シミュレーション1:借入れ10年目に繰上返済を行った場合
住宅ローン減税が終わる10年目に、500万円、または1,000万円を繰上返済した場合、より金額が多い方が当然ながら軽減額も大きくなります。また、返済額軽減型よりも期間短縮型の方が、軽減額が2倍近く多くなり総支払額も少なくなります。
もっとも、毎月の支払額は1,000万円を返済額軽減型で繰上返済すると約4万円も減ることから、家計に対する住宅ローンの割合を下げたい場合は、返済額軽減型が有利です。
(以降、表内の数字はすべて1万円未満切り捨て)
(表1)期間短縮型での繰上返済
繰上返済額 |
総支払額 |
支払利息 |
軽減額 |
返済期間 |
短縮された
期間 |
500万円 |
6,061万円 |
1,061万円 |
-174万円 |
31年3ヶ月 |
3年9ヶ月 |
1000万円 |
5,918万円 |
918万円 |
-317万円 |
27年8ヶ月 |
7年4ヶ月 |
(表2)返済額軽減型での繰上返済
繰上返済額 |
総支払額 |
支払利息 |
軽減額 |
毎月の
支払額 |
毎月の
軽減額 |
500万円 |
6,149万円 |
1,149万円 |
-86万円 |
12.8万円 |
-19,609 |
1000万円 |
6,063万円 |
1,063万円 |
-172万円 |
10.9万円 |
-39,218 |
シミュレーション2:500万円を借入から5年目、10年目、15年目のいずれかに繰上返済した場合
繰上返済の金額は同じで、返済時期をずらした場合はどうでしょう。下表のとおり、5年目で返済した場合の軽減額がマイナス218万円と、最も大きくなっていることから、なるべく早い時期に返済を行った方が、より有利なことが分かります。
(表3)期間短縮型での繰上返済
返済時期 |
総支払額 |
利息 |
軽減額 |
返済期間 |
短縮された
期間 |
5年目 |
6,017万円 |
1,017万円 |
-218万円 |
31年0ヶ月 |
4年0ヶ月 |
10年目 |
6,061万円 |
1,061万円 |
-174万円 |
31年3ヶ月 |
3年9ヶ月 |
15年目 |
6,103万円 |
1,103万円 |
-132万円 |
31年6ヶ月 |
3年6ヶ月 |
しかし、返済額軽減型での繰上返済では、最も遅い15年目に返済を行った方が毎月の支払額が大きく減っています。
(表4)返済額軽減型での繰上返済
|
総支払額 |
利息 |
軽減額 |
毎月の支払額 |
毎月の軽減額 |
5年目 |
6,131万円 |
1,131万円 |
-104万円 |
13.1万円 |
-1.6万円 |
10年目 |
6,149万円 |
1,149万円 |
-86万円 |
12.8万円 |
-1.9万円 |
15年目 |
6,167万円 |
1,167万円 |
-68万円 |
12.4万円 |
-2.3万円 |
シミュレーション3:100万円を10年間にわたり繰上返済した場合
繰上返済は借入期間中であれば何度でも行うことができます。1回の返済額は少なくても複数回実施することで、1回で返済するよりも高い効果を出すことができます。
(表5)期間短縮型での繰上返済
|
総支払額 |
支払利息 |
軽減額 |
返済期間 |
短縮された
期間 |
100万円を
10年間 |
5,824万円 |
824万円 |
-411万円 |
27年1ヶ月 |
7年11ヶ月 |
1,000万円を
一括 |
5,918万円 |
918万円 |
-317万円 |
27年8ヶ月 |
7年4ヶ月 |
(表6)返済額軽減型での繰上返済
|
総支払額 |
利息 |
軽減額 |
毎月の
返済額 |
毎月の
軽減額 |
100万円を
10年間 |
6,023万円 |
1,023万円 |
-212万円 |
11.4万円 |
-3.3万円 |
1,000万円を
一括 |
6,063万円 |
1,063万円 |
-172万円 |
10.9万円 |
-3.9万円 |
まずは確実に減らせるコストカットに着手を
繰上返済を行うことで、住宅ローンの負担を100万円以上減らすことができます。期間短縮を行うことで年金生活に入る前に完済し、安心して老後を過ごすこともでき、返済額軽減を行うことで毎月の返済額を減らし、今の生活にゆとりを持たすこともできます。
注意点としては、繰上返済時には手数料が掛かりますので、その点を考慮した返済計画を立てましょう。また、返済するお金と生活資金とのバランスも取りましょう。数年のうちに使い道が決まっているお金まで繰上返済に使ってしまい、逆に生活にゆとりがなくなってしまうのは本末転倒です。必要なお金は別途確保しながら、繰上返済で確実に支出削減を行っていきましょう。
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