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2019.11.28

「逆流性食道炎」と「歯ぎしり」の意外な関係

(写真=file404/Shutterstock.com)
(写真=file404/Shutterstock.com)
(本記事は、野村洋文氏の著書『健康寿命は歯で決まる!』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)

歯ぎしりと逆流性食道炎との密接な関係

「歯ぎしりはまだまだわからないことの方が多く、完全に解明されていない」と述べてきました。過度なストレスが生じると、それから解放する手段として歯ぎしりが始まってしまう場合があることも述べました。

しかし、ストレスのような後発的要因ではなく、生まれつき、遺伝的な要素も絡み、歯ぎしりをされている方ももちろんいらっしゃいます。その歯ぎしりにより、歯・歯の周囲組織、さらには全身が影響を受け、それがストレスになり、さらに歯ぎしりが悪化するという負のスパイラル現象が起きていることも否めません。

そう考えますと、ストレスが先で歯ぎしりを生じるのか、歯ぎしりが先でストレスが生じてさらに歯ぎしりが悪化するのか、という問題は、「鶏が先か、卵が先か」同様、判別するのが難しいことはお察しいただけるかと思います。

そこで、この問題と密接に関わる、逆流性食道炎と歯ぎしりとの関係について述べますね。

胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、食道粘膜に障害をきたしている疾患を、逆流性食道炎と言います。ひどくなると、食道の炎症はおろか、胃酸が口腔内に流れ込むことで、歯の酸蝕症(先ほどワインのお話で述べましたね。強い酸で、歯の表面が溶けて脆くなるもの)が起きる危険性もあります。この状態で歯ぎしりをすると、よりいっそう歯が傷みやすくなるのは想像がつくと思います。

今、上下の歯を少しだけすり合わせたり、カチカチさせたりしてみてください。唾液がュワッと出てくるのがわかるでしょう。同様に、歯ぎしりをするとかなりの量の唾液を分泌することがわかっております。

結論を先に言いますと、逆流性食道炎を患っている人の多くに、歯ぎしりが認められているのです。その理由については、食道内に入り込んできた胃酸を、歯ぎしりにより分泌促進された唾液で薄めて中和し、洗い流すため、という説が有力です。逆流性食道炎と歯ぎしり、一見して何の脈絡もないように感じられる両者、実は密接に関係しているのです。

その関係を確かめた実験があります。普段は歯ぎしりをしない被検者の食道内に、睡眠中、酸を注入したところ、「高い率で歯ぎしりが認められた」というものです。つまり、酸を注入して逆流性食道炎に似た状況を作ったところ、歯ぎしりが誘発されたのです。

実際、僕が日ごろの診療で出会う歯ぎしりを訴える患者さんの中にも、逆流性食道炎の方が相当数います。

ただし、逆流性食道炎になってから歯ぎしりが起こるとは限らず、「昔から歯ぎしりがあったが、最近になって逆流性食道炎と診断された」という患者さんもいます。

逆流性食道炎自体、初期や中期であれば、ほとんど自覚症状がない場合もあります。そんなこともあって、先ほどの、「鶏が先か、卵が先か」同様、「歯ぎしりと逆流性食道炎のどちらが先か」を判断するのは難しいのです。

以前、ある男性患者さんに、「先生、自分、逆流性食道炎なのですが、ガムを噛んでいるとすごく楽になります」と語りかけられたことがあります。

これだ!と思い、彼に「おそらく、ガムを噛むと、唾液の分泌が促進され、食道に流し込まれますので、逆流してくる胃液を中和させる働きで、楽になるのだと思います。逆流性食道炎と歯ぎしりも、深く関係があり、今、言った原理で逆流性食道炎患者に歯ぎしりが顕著にみられる、というのが、有力な説です」とお答えしました。

繰り返しますが、もともと、歯ぎしりは無意識のうちに行われるストレス解消のための行為です。一方、逆流性食道炎発症の主要因にストレスが挙げられます。ですから、この二つが併発しやすいのは当然とも言えますね。

ここで、大事なのは、歯ぎしりをしている、するようになったと自覚されている場合、逆流性食道炎を疑い、念のために、内科を受診するという姿勢を持つことでしょう。

歯ぎしりとうまく付き合っていこう!

最重要事項なので繰り返しますが、歯ぎしりは止められないし、止めてはいけません。

人間がストレスを感じた際、脳がそのストレスを緩和させるために行う防御システムだからです。

最近の研究から、睡眠中の歯ぎしりが、ストレスを発散させることで、胃潰瘍の予防に効果を発揮していることがわかっております。

また、人はストレスの下で生活していると、コルチゾールという血糖値を上昇させる役目のあるホルモンが増加します。ストレスが強くなることに比例して、コルチゾールの分泌量が増えますので、血糖値が上がってゆく傾向にあります。

ところが、歯ぎしりをすることで、このコルチゾールの分泌が抑えられることがわかってきたのです。これは、歯ぎしりをすることで、血糖値の上昇が抑制できることを示唆しておりますね。この理論から、現在進行形で、歯ぎしりと糖尿病治療についての研究が進んでおります。

また、非常に重要なことですが、逆も言えます。

最近歯ぎしりするようになった場合、もしかしたら、ご自身のストレスに対するSOSなのかもしれませんし、自覚症状がなくても、逆流性食道炎や、睡眠時無呼吸症候群の兆候があるのかもしれません。

ですから、歯ぎしりという身体の局所的な行為ではありますが、健康、病気という身体全体の問題解決に還元できうるのです。

そして、歯ぎしりをしているとわかった場合、放りっぱなしではいけません。再三申し上げていますが、自分の体重の3倍ほどの力がかかりますので、歯や歯肉、歯の周りの骨、顎、に異常なほどの負担が加わります。

まずは、口腔内を保護するために、歯科医院でマウスピースを作成・装着してください。

その際、マウスピースで歯ぎしりを治す、というよりも、口の中を守る、という気楽な心構えで装着してください。

実際、マウスピースで歯ぎしりが完治するわけではありませんし(止まるケースもあります)、治そうと過度な期待を持つと、それがストレスとなり、うまくいくものもうまくいかなくなってしまいます。

マウスピースで口腔内を守ることにより、破壊的な力から解放されて、痛みが和らいでゆきます。そして、覆いかぶさっていたストレスが徐々に剥は がれてゆき、結果、痛みがとれて、ストレスも解消される方向に向かうのです。

最後に、歯ぎしりをしているとわかったなら、悲観的にならず、上手に付き合っていこうとするポジティブ思考が大切です。それは、歯ぎしりをストレスと感じないことも意味します。

そして何よりも、ストレスをためない、ストレスを発散させるルーティーンをつくる、そういった日常の姿勢が重要ですね。

文・ZUU online 編集部/ZUU online
 
健康寿命は歯で決まる!
野村洋文(のむら・ひろふみ)
昭和43年4月6日、埼玉県入間市生まれ。日本大学歯学部卒業、トロント大学歯学部留学。木下歯科医院副院長。中久喜学術賞受賞、歯学博士、 食と口の評論家(入間市)、社団法人オーラル・ビューティー・フード協会理事、日本摂食嚥下リハビリテーション学会会員。雑誌の口腔関連記事への監修、および、異業種と歯科医療とのコラボレーショなど、歯科業界の向上・飛躍を目指し多岐にわたり活動している。

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