この特集に目を通そうとしている読者の中に、絵画や彫刻といったアート作品やアート市場に関心を持つか、あるいはすでにコレクターとして収集をしている人はどれだけいるでしょうか。欧米に比べて、アートは日本ではなじみの薄い世界であることは事実です。また、一部の富裕層のみしか触れることができないという認識を持つ人も少なくないでしょう。これには、日本国内のある事情が関係しています。この特集では現代の「ジャパニーズ・アート」に注目。日本のアート界やアート作品の可能性、あるいはアートに対してどのように接すればいいのかについて紹介していきましょう。
ジャパニーズ・アートへの投資における日本人の優位性
日本でアートが一部の富裕層のみ対象としたイメージを持たれがちなのは、日本のメディアの偏向報道が大きく影響しています。これについて、世界的なオークションハウス(競売会社)であるサザビーズの日本法人、サザビーズジャパンの石坂泰章代表取締役社長兼会長は「日本の新聞やテレビなどのメディアがアート作品やアートビジネスについて報道する機会がそもそも少ないんです」と述べています。
「日本では、例えば『オークションで某社長が有名な美術作品を100億円で落札した』などのように数字ばかり報道される傾向があります。数億円、数十億円といった数字ばかりを見ていると、どうしても雲の上の世界と感じてしまいますよね。欧米では、新聞などの主要メディアで展示会や業界の事情など、アートに関する情報が日常的に報じられていて、アートに関する情報が自然と目に入ってきます。だから、アートやアートビジネスに触れる機会が多いんです」(石坂さん)
触れる機会が多ければ、興味を持つ人やアートビジネスの世界に身を置く人が増えるのは当然です。もちろん、日本にもアート作品やアートビジネスを取り上げる雑誌や新聞がないわけではありません。ただ、主要メディアで報道されること自体が少ないので、自ら能動的に情報を求めないと入手することが難しくなっています。
しかし、逆に考えれば「積極的に情報を入手しようとすれば、他の人々が知り得ない情報を手に入れられる可能性を秘めている」ということです。いくら海外の人たちがアートに対する知見を持っていたとしても、日本人には日本国内に住む優位性があります。ここに、私たち日本人が「ジャパニーズ・アート」を購入するメリットがあるのです。
本題からは少しずれますが、アートに対する素養はビジネスパーソンの武器にもなります。それは、「海外のビジネスパーソンは日本人が考えている以上にアートに対して高い関心を持っている」からです。アートという共通の話題を持つことで、海外のクライアントとの商談がよりスムーズに進められるかもしれません。
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海外市場に出れば価格が跳ね上がる!?
では、はたしてジャパニーズ・アートは将来的に有望と言えるのでしょうか。“現代アートのチアリーダー”を称し、国内のアーティスト(作家)たちにスポットライトを当てるべく活動している、アートディレクターの山口裕美さんは次のように指摘しています。
「グローバルマーケットでは、多くの人がアーティストの声や作品に込めた思いを知りたいと考えています。しかし、日本のアーティストは英語を苦手とする人が多いうえ、セルフプロデュースもあまり得意ではない傾向があるんです。そのため、まだまだ海外で知られる日本人のアーティストは少ないのが現状。ただ、日本のアーティストのクオリティは非常に高いですし、日本人アーティストの作品を“産地直送”で購入できるメリットは大きいと思います」
さらに、前述の石坂さんはジャパニーズ・アートの可能性について次のように述べています。
「私はずっと以前から、日本の作家はグローバルで通用する作家になれば、価格は途端に5倍に跳ね上がると言ってきました。多少当てずっぽうなところはあったかもしれませんが、村上隆、奈良美智のその後の海外での評価を見ると、まんざら外れたとは言えないでしょう。アートとは、いわば究極のオリジナル。世界を見渡しても、日本人はそういった感性が秀でていると私は見ています」(石坂さん)
村上隆(たかし)氏は日本の現代美術家。パリのベルサイユ宮殿で個展が開かれるなど、海外で高く評価されています。また、奈良美智(ならよしとも)氏も日本の現代美術を代表する作家の一人で、やはり海外でブレイクしました。
アート界において石坂さんと山口さんはそれぞれ違う立場にいますが、「日本の作家の作品はグローバル的にはかなりアンダーバリュー」と考えている点は共通しています。日本国内には、海外市場に飛び出すことでブレイクしても不思議はない作家や作品が数多く存在していると言っていいでしょう。
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