投資・資産運用
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2019.12.17

タックスヘイブンは悪なのか、そこに集まる巨大な資金について

(画像= Exclusive Aerials/Shutterstock.com)
(画像= Exclusive Aerials/Shutterstock.com)
今までタックスヘイブンといえば、どこか遠くの場所で起きている事柄で、私たちの生活とは切り離されたものと考える人が多かったと思います。

多くの人がタックスヘイブンに無関心でいる間に、このタックスヘイブンは世界のグローバリズムと共にその規模が拡大していき、自由に国境を越えて世界中を飲み込む勢いとも言われています。

例えば巨額のマネーを動かしているグローバル企業の多くが最大限の利益を享受しようと、税金を抑える目的でタックスヘイブンを求め、その要求に応じるようにタックスヘイブンも大きくなったのです。

国境を越えた企業はときに国家よりも強い立場になることもあり、ときに企業の思惑が国家の政策にも左右することもあるのです。

今回はタックスヘイブンとそこに集まる巨大な資金について考察していきます。

タックスヘイブンとは

そもそもタックスヘイブンとは何かというと、実は公式な定義は存在しません。

タックスは「税」を意味し、ヘイブンは「避難港」という意味なので、日本では「租税回避地」と訳されています。

しかし、税から逃れる場所という意味を大きく解釈していくと、税法だけでなくお金に関わる様々な法律が行き届かない場所であり、法律が及ばない場所としての役割を担っているともいえるはずです。

また徹底して秘密が守られる「守秘法域」でもあり、オフショアという考え方とも繋がっていきます。

つまり、不法な資金の洗浄場所として、タックスヘイブンは資本主義のウラ側も担っているのです。

その他の特徴として、タックスヘイブンと呼ばれる地域は基本的に自らをタックスヘイブンであることを認めようとしません。

その理由は、当人たちも資金洗浄地というイメージを回避しようとしているからです。

そもそも先進国の事情によって作られており、あくまで表向けは無関係である態度をとっています。

タックスヘイブンが盛んになったのは1950年代に基軸通貨がポンドから米ドルに変わり、再び金融の中心地としての機能を取り戻そうとしたイギリスが規制緩和をしたことが発端です。

こうしてタックスヘイブンがイギリスで生まれ、海外領土や旧植民地などに次々とタックスヘイブンの役割を担う土壌が育ったのです。

つまり、先進国の思惑が劇的に変わらない限り、今後もタックスヘイブンは無くならないことを意味しています。

2019年現在、タックスヘイブンが盛んな土地としてカリブ海にあるケイマン諸島、英領バージン諸島、香港・シンガポールなどが有名で、それぞれ異なる特徴が以下のようにあります。

ケイマン諸島

カリブ海にあるイギリスの海外領土。

所得や利益、相続に対する税金は非課税です。

銀行秘密法によって法律で秘密保持が義務付けられており、例えば銀行秘密を求めた場合だけでも犯罪とみなされます。

ちなみに日本は米国に次いで2番目の金額である約74兆円の証券投資残高と約57兆円の債権残高がケイマン諸島にあるといわれており、日本とケイマン諸島の経済的な繋がりの深さを物語っています。

英領バージン諸島

イギリスの領土であり、パナマのモサック・フォンセカ法律事務所がペーパーカンパニーをこの地で多く設立しています。

人口2万3000人の土地に対して約48万社のペーパーカンパニーが設立されています。

香港・シンガポール

アジアにおけるタックスヘイブンの中心地であり、両方とも旧イギリス領であることが特徴です。

それぞれ法人税率は香港16.5%、シンガポール17%であり、日本の定義では法人税率20%以下の場所がタックスヘイブンとされており、この条件に該当します。

実際、日本からも多くの企業が進出しており、例えばアジア展開している事業を統括する形で地域統括会社をシンガポールに設立し、その会社を通じてアジア各国の子会社(日本本社からは孫会社にあたる)に出資するケースも多いのです。

このようにオフショア金融センターとしての傾向が強いのです。

どちらも金融規制が緩やかなため、多くのグローバル企業がアジア展開のハブ拠点として利用しています。

タックスヘイブンする企業の税逃れの仕組み

アップルやスターバックスなどの世界有数の企業も税逃れを目的としたタックスヘイブンを利用しており、その仕組みについて解説していきます。

アップルは「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドウィッチ」と呼ばれる手法で課税逃れをしています。

まずアップルはアイルランドに2つの子会社を設立しています。

なぜアイルランドかというと、法人税率が12,5%と低いだけでなく、アメリカとアイルランドでは課税の考え方が違うことを巧みに狙った手法といえます。

アメリカでは企業が設立された国が課税権を持っているとする「設立準拠法主義」を採用しているのに対して、アイルランドは企業を管理・支配している国が課税するという「管理支配地主義」を採用しています。

つまりアップルのアイルランド子会社は英領バージン諸島の子会社から管理支配されているという形をとることで、アイルランド国内では課税されず、アメリカでも設立された国が課税権を持つ考え方であるため、アイルランドにある子会社はどこからも課税されないのです。

そしてアイルランドに設立した第1法人には、アメリカ本社で開発した特許権や知的財産権を集中させることでアイルランドでは課税されなくなります。

そして第2法人では受け取った利益や権利を第1法人に支払うか、もしくはオランダに設立した子会社経由で支払いをします。

なぜオランダかというと、アイルランドではライセンス料に源泉税が課せられ、オランダには外国からの資金の出入りに源泉税が課からないからです。

こうしてアイルランドに2つの会社を作り、オランダを挟むことで、税金を逃れているのです。

スターバックスの税逃れの仕組みは、オランダに欧州本社と子会社となる焙煎会社を置き、シアトルの本社は欧州本社にブランド使用権や知的財産権を移譲します。

それからイギリスにコーヒー販売の子会社を置き、販売収益からライセンス使用量も欧州本社に支払います。

イギリスの販売子会社は、シアトル本社から高金利で事業資金を借り受けし、利息の支払いという形でシアトル本社へ支払いをします。

イギリスの販売子会社はオランダにある焙煎会社から輸入する際にスイスを挟むことで、「スイス・トレード・カンパニー」の制度利用によって国際商品の売買で生じる利益に対して5%という優遇税率が適用されるのです。

非常に高度で複雑ではあるものの、グローバル企業の多くが同じような手法を採用しているのです。

タックスヘイブンがマネーロンダリングに利用される

タックスヘイブンではマネーロンダリング(資金洗浄)が盛んに行われていると言われています。

例えば犯罪をして得たような黒いお金を通常の取引のように偽装したり、海外のペーパーカンパニーを使って不正資金の痕跡を消してしまうのです。

ではマネーロンダリングがどれほどの金額になるかというと、国連の薬物犯罪事務所(UNODC)の発表によれば、GDP(国内総生産)の2~5%に上ると言われています。

また国際通貨基金(IMF)の発表では、世界で横行する賄賂の額は1.5兆ドルから2兆ドルと発表され、これは世界全体のGDPの2%にも達する大きさです。

こうした中で、マネーロンダリング対策として、1989年には「マネーロンダリングに関する金融作業部会(FATF)」が設立されたものの、実際の取り組みはほとんど進んでいません。

その原因は英米を中心とした先進国による消極的な姿勢が変わらないからです。

実際、有名な「パナマ文書」を見ればわかるように、先進国の権力者や富裕層の多くが何らかの形で関与しているケースも多く、ブラックマネーの闇はなかなか表に出てこないのが現状です。

プライベートバンクとオフショアの関係

プライベートバンクの役割は個人の銀行口座の開設や資産保全・管理・運用などのサービス業務を担うことです。

この分野においてスイスの銀行は中立国という歴史的な背景も手伝って、とても有利な立場にあります。

そしてプライベートバンクでは顧客の秘密保全が欠かせないため、オフショア・タックスヘイブンが多く利用されています。

このオフショアの世界で税逃れや法規制逃れなどのビジネスが暗躍している側面もあり、世界各国のメガバンクも主要なプレイヤーとして連ねているのです。

一方、プライベートバンク大手のUBS銀行、クレディ・スイス、ゴールドマンサックスなど、プライベートバンクが管理する資産は年々飛躍的に成長(年平均16%程度)しており、富裕層には欠かせないサービスを提供していることも事実なのです。

このようにプライベートバンクとオフショアは蜜月関係であるものの、今後はあり方も含めて様々な議論がなされていくことは間違いないでしょう。

タックスヘイブンと各国の対応

フランスの経済学者トマ・ピケティは格差拡大は現代資本主義の長期的な傾向として捉え、その根拠をr > g という不等式を使って説明しました。

rは資本の収益率、gが経済成長率を示し、rが年平均4~5%であるのに対して、gは1~2%程度であり、経済格差は拡大する一方であることを数学的に指摘したのです。

この対策としてウォーレン・バフェットはバフェット税(バフェットルール)と呼ばれる富裕者税を提案しましたが、実現には至っていません。

たとえ各国が対策を強化しても、今後もタックスヘイブンへと富が流出いくはずです。

そのため不公正な税制によって各国の財政が悪化しないような社会にするための改革が必要です。

そしてタックスヘイブン全てに問題があるのではなく、合法、非合法との溝が大きく、はっきりしない広大なグレーゾーンこそ問題提起されるべきです。

なぜなら、「タックスヘイブン=悪」という論調には、合法的な節税も「国民の権利」であるという視点が抜けているからです。

おわりに 21世紀のタックスヘイブンの行方

タックスヘイブンは「悪の巣窟」として描かれるのが一般的です。

そこには、合法的な租税回避、という視点は完全に欠落しています。

もちろん脱税は利益に対して適切な税を納めない行為なので批判されるべきです。

しかし、それよりはるかに悪質な行為があります。

それは、他人が納めた税金を詐取する「タックスイーター」と権力者の癒着構造ですが、それを批判しても世論の支持は得られないことは、投票率や誰が税金の恩恵を受けているのかを考えれば分かるはずです。

ガス抜きとして必要なのは誰の既得権も侵さないことであり、そういった視点から考えてみると「パナマ文書」が必要以上に脚色されて批判されるのも納得できるはずです。

社会のあり方が変わらない限り、タックスヘイブンをもっとオープンな形で議論されることは難しく、タックスヘイブンという資本主義のブラックホールは今後も膨張していくはずです。

文・The Motley Fool Japan編集部/The Motley Fool Japan
 

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