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2019.10.5

日本人の幸福分岐点は年収800万円?超えるとさほど幸せでなくなるのは本当か?

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)
お金があればあるほど幸せだと、一般の人は考えます。例えば年収1,000万円の人のほうが年収300万円の人より使えるお金が多いのはすぐ分かります。広い家に住み、ブランド品を持ち、高い車に乗っている人を見て「幸せそうだ」と感じるのは当然と言えるでしょう。しかしお金があるほど「幸せ」なのは本当でしょうか。だとすれば、どれだけお金があれば幸せと言えるのでしょうか。

「幸福はお金では買えない」は誤解

アメリカの大学の調査研究では「お金の額と幸福感は比例するが、あるところまでいくと“感情的な幸福感”は薄まる」という結果が出ています。

すでに多くのメディアで紹介されていますが、この調査研究をしたのはプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授らのグループで、2010年に「米国科学アカデミー紀要」(Proceedings of the National Academy of Science of the United States)に発表されると、大きな反響を呼びました。

その後も繰り返し紹介されてきているのですが、日本での紹介の仕方は「幸福はお金で買えない」「お金は人を幸福にしない」といったトーンが多く、実際の研究結果とは違った印象を与えています。

これは、日本ではお金を稼ぐことを否定的に捉える伝統的な文化風土があることに加え、メディアも社会も平等意識が強すぎるからでしょう。そこで、ここではその誤解を解きながら「どれだけお金があれば幸せか」を考えてみます。

7万5,000ドルが「幸福度」の一つの分岐点――私たちは2種類の「幸福」を持っている

これまで多くの社会科学者や心理学者が「幸福度」の測定方法を模索してきましたが、カーネマン教授らの調査研究が画期的だったのは、幸福を2つのカテゴリに分けて、収入との関係を調べたことです。その日の心理状態という意味での「幸福」と、自分の人生全体を評価できるかできないかという意味での「幸福」です。今日はみんなからほめられて気分がいいと感じる幸福と、自分の人生について満足しているかどうかで得られる幸福は違うということです。

カーネマン教授らの調査研究を「感情的な幸福」にフォーカスして要約すると、以下のようになります。

(1)世帯年収が7万5,000ドル(日本円で約800万円)以下の人では、収入と「喜び」や「満足感」といった感情は比例する。

(2)7万5,000ドルを超えると、「喜び」や「満足感」は、7万5,000ドル以下のときと比べて薄まる。

つまり、7万5,000ドルという額を分岐点として、それを超えると「感情的な幸福感」はそれほど増さないということです。

この調査研究では、自分の人生全体を自己評価したときはどうなるか?ということも調査されました。
それによると、例えば年収12万ドルの人は年収7万5,000ドルの人より自己評価が高く、年収16万ドルの人は年収12万ドルの人よりさらに「人生に満足している」と答えています。年収が高いほど自己評価が高く、満足感も強いのです。

この調査研究では2つの「幸福」を切り離したことにより、「日々感じる瞬間的な幸福度は、年収7万5,000ドルを境に収入が増えてもそれほど上がらなくなるが、長い目で見た幸福度は高所得者であっても収入とともに上がり続ける」という結果が出たのです。

とすると、「人生全体に対する満足感」は、お金があればあるほどいいということになります。身も蓋もありませんが、「幸福はお金で買える」ということです。

貧困層の年収の約3倍が「感情的な幸福度」の分岐点

では、世帯年収7万5,000ドルというのは、どういう数字なのでしょうか。

アメリカの世帯年収の中央値は6万3,688(2019年1月時点)ドルです。平均値は約7万ドルですが、ここには富裕層も入ってしまうため、中央値のほうが実際に近いとされます。中央値というのは、平均値とは違って、仮に全体で100人いた場合、ちょうど真ん中の50人目の人の状態です。とすると、7万5,000ドルというのは、中央値の人々よりワンランク上の収入ということになります。

さらに、アメリカにはポヴァティライン(貧困ライン)といって貧困層の定義があり、これは一世帯(家族4人)の年収が約2万4,000ドル以下とされます。すると、7万5,000ドルはその約3倍ということになります。この3倍の差が、幸せを感じるとき、もっとも大きな差を生むというわけです。

年収が7万5,000ドルあれば、アメリカでは日々の生活に困ることなく、ある程度満足のいく暮らしが送れ、住宅ローンを組んでマイホームを買うことができ、子どもも公立ではなく私立に通わせることができます。

日本の幸福度の分岐点はどのくらいか?

では、日本ではどうでしょうか。

厚生労働省の「平成30年 国民生活基礎調査」によると、日本の世帯収入の平均値は551万6,000円で、中央値は423万円です。日本もアメリカとそう変わりません。とすると、日本の幸福度の分岐点も、アメリカと同じ7万5,000ドル=約800万円と考えていいのではないでしょうか?

ただし、日本の場合、貧困層とされるのは世帯年収200万円以下と考えられるので、この3倍とすれば600万円ということになります。

おおむね600~800万円以上になると、感情的な幸福度より、自己評価の高さによる幸福度が上がっていくということになります。
 

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周囲の誰かとの比較が「お金持ち」をつくる

以上が、7万5,000ドルという分岐点から見た「幸せ」ですが、実は、人々が本当に「幸せ」を感じるのは実際の金額の大小ではないという見方が存在します。

それを、アメリカのジャーナリストH・L・メンケンは、こう表現しましました。「お金持ちとは、妻の姉の夫よりも年間100ドル多く稼ぐ人のことだ」

つまり、人が収入によって感じる幸福は、収入の額そのものではなく、「自分の周囲の誰かより多いかどうか」で決まるというのです。

人は自分の周囲の誰かの収入が自分の収入よりも多いと知ったとき、幸福感(一時的な感情であれ、自己評価のためであれ)を得るために、さらに稼ごうとするのです。つまり、周囲が自分より収入が低ければ、それで幸福を感じるというのです。

とすると、富裕層は自分の周囲が富裕層ばかりだからこそ、さらにもっと上の富裕層を目指すことになります。こうしてスーパーリッチが誕生するのでしょう。
 

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