(本記事は、小山田 育氏の著書『
ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
ブランド・システムの構築
この章では、実際にブランディングはどのようにおこなっていくのか、順を追って説明します。
STEP 01 ヒアリング・リサーチ・分析
戦略的に強みや個性を引き出し、ブランドの本質を見極める
はじめに、ブランドの基礎である本質を引き出す作業を行います。実際に、どのようにして多くの情報の中からブランドの本質を見極めていくのでしょうか? それは、
企業・商品・サービスがすでに持っている魅力を引き出し、整理し、それを時代や消費者のニーズを考えながら効果的にアレンジしていくことで可能になります。
そのためには、経営者(ブランドオーナー)や担当者が自分の意志と会社の立ち位置をしっかりと正確に把握することが必要です。自社の歴史や企業文化、ビジョン、ミッション、どういう思いで会社を営んでいるのか、何を目指しているのか、世界にどういうインパクトを与えたいのか、他社にはない強みは何か、課題と問題点は何か、このブランドではどういう商品やサービスを取り扱うのか、その商品の強み、ブランドのゴールは何か、などです。
競争戦略型だった頃の相対的なものとは違い、そのブランドが本来持っている強みを引き出すことが重要であり、他社が絶対に真似できないような能力であるコアコンピタンス(Core Competency) とも重なる部分もあります。誰が見てもわかるような、競合他社を圧倒的に上まわる能力や、絶対に真似できない技術や商品があれば素晴らしいことです。しかし、一見そうとは見えなくても、大切にしているところ、情熱を持って取り組んでいること、自信のあるところ、など会社の個性を柔軟な視点で丁寧に引き出していくと、唯一無二の価値を必ず見つけることができます。社内の人間には当たり前になっているものが、外から見ると素晴らしい強みであることが多々あるのです。ですから、固定観念や自分の価値観にとらわれず、また先入観や情報でバイアスをかけたりせず、柔軟にクリエイティブに本質を見極めましょう。
この過程で指針になるのは、「良いブランドの条件」です。ブランディングは、この条件を満たすような方向に進んでいく必要があります。この条件も時代によって変化していきますが、現在の良いブランドとは以下の条件を満たしているものです。
● AUTHENTIC: 偽りがない
● VISIONARY:ビジョンがある
● VALUABLE:価値がある
● COHERENT:一貫性がある
● SUSTAINABLE:持続可能である
● FLEXIBLE:柔軟である
● DIFFERENTIATED:差別化されている
● COMMITTED:約束を守っている
● EMOTIONAL:感情を引き出す
● SOCIAL:社会貢献の要素がある
● ENVIRONMENTAL:環境に優しい
● GOVERNANCE:企業倫理/ ガバナンスがある
● POSITIVE: ポジティブである
STEP 02 ブランドDNA
ブランドの本質を概念化する
ブランドの本質が見えてきたら、いよいよブランド・システムの構築に入ります。
まずは、ブランドに関わる人々の間でブランドの本質を共有するために、ブランドのDNAをつくり上げていきます。これはブランドの本質を概念化したものです。ここが不確かだと、このあとのブランディングが砂上に城を立てるような危ういものになってしまいます。
ここで頭に入れておきたいのは、このブランドの本質を概念化したものは、いわばブランドにとってのDNA。消費者だけでなく、このブランドに関わる全ての人々が、混乱することなく確実に理解し、誰もが迷わず同じ方向を目指せるように、正確に明確にシンプルに定義する必要があります。どんな価値観を持っている人でも理解できるように、わかりやすく論理的なものがベストです。
時代やプロジェクトに合わせて常に調整が必要ですが、現在私たちがブランドの本質を整理し、わかりやすく概念化するための項目として入れているのは、次のものです。
ブランドDNA
❶ ターゲット・オーディエンス(Target Audience)
❷ プロダクト・ベネフィット(Product Benefits)
❸ ブランド属性とブランド価値(Brand Attributes and Brand Values)
❹ ブランド・パーソナリティ(Brand Personality)
❺ ブランド・ビジョン(Brand Vision)
❻ ブランド・プロポジション(Brand Proposition)
❼ 市場での位置付け(Tone in the Market)
❽ ブランド・プロミス(Brand Promise)
❾ ブランド構造(Brand Structure)
❿ ブランド・エクスペリエンス(Brand Experience)
⓫ トーン・オブ・ボイス(Tone of Voice)
⓬ ブランド名称( Naming)
⓭ ブランドストーリー( Brand Story)
⓮ タグライン( Tagline)
STEP 03 ビジュアル・アイデンティティ
ブランドの本質を体現する
せっかく素晴らしいブランド戦略が明確に定義できても、それが体現できなければ、ブランドとして全く機能しません。ブランドDNAができたら、それを消費者や社会に魅力的に伝わるよう、ビジュアル・アイデンティティ(Visual Identity)を構築していきます。ビジュアル・アイデンティティは、アートディレクターやグラフィック・デザイナーによってつくり上げられますが、ブランディングの途中から採用するのではなく、ブランド・システム構築の段階から、経営戦略のチームとして参加しているほうが、最終アウトプットを描きながらより強いブランドをつくることができます。
小山田 育
HI(NY)共同代表。クリエイティブ・ディレクター/アートディレクター/グラフィックデザイナー。NYの美術大学School of Visual Artsグラフィックデザイン科を卒業。MTV、ブランディング・エージェンシーのThe Seventh Artを経て2008年、HI(NY)を設立。One Show、Graphis、GD USAなど多数受賞。AIGA会員、NYアートディレクターズクラブ会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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