(本記事は、小山田 育氏の著書『
ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
ブランドとブランディングの関係
ブランディングとは企業のブランド価値を向上させる経営戦略ですが、そもそも「ブランド」とは何でしょうか?
ブランドの本質
「ブランド」という言葉を聞いたとき、シャネルやエルメスなどの高価な商品を取り扱った高級ブランドを思い浮かべる方も多いと思います。ブランド(Brand)の語源は、古英語Brand、古高ドイツ語brant、古ノルド語brandrなどの「焼く」という言葉からきており、ワインの樽や家畜などに、品質やオーナーシップを識別するために熱した鉄で焼印をつけることを意味していました。
現在のブランドの定義は、アメリカン・マーケティング協会 (AmericanMarketing Association: AMA) が定義する以下のものが一般的です。
A brand is a "Name, term, design, symbol, or any other feature thatidentifies one seller's good or service as distinct from those of othersellers."
ブランドとは、商品やサービスを競合他社から明確に区別し識別させるための、名称、言葉、デザイン、シンボル、その他の特徴である。
特徴としてすぐに思いつくのは、ブランドの名称やロゴだと思いますが、色、写真、キャッチフレーズなども特徴の1つになります。消費者がブランドに触れる機会は、商品やサービスの他、SNS、カスタマーサービスの応対など多岐にわたりますが、全てのタッチポイントで、消費者は一貫してそのブランドの個性、「らしさ」を感じることができます。このようにブランドの本質とは、品質でも希少性でもなく、強みや個性である「らしさ」なのです。
世界観を直感的に感じてもらうために
しかし、ブランドの本質である、強みや「らしさ」といった抽象的なものは、伝えるのが非常に難しいものです。そこで、この強みや「らしさ」を、消費者に伝わるような特徴として、多角的にブランドを表現し、消費者が「このブランドはこういうブランドなのだな」とその世界観を
直感的に感じることができるようにするのがブランディングです。
ブランディングとロゴ、VI、CI の違い
ブランディングと混同しやすいのが、「ロゴ」「VI(ビジュアル・アイデンティティ)」「CI(コーポレート・アイデンティティ)」です。
ここでは、ブランディングとこの3つの違いを説明します。
ロゴ
ロゴとは、文字やシンボル、マークをデザインしたもので、純粋なグラフィック要素の呼称です。会社名や店舗名、商品名、組織名をベースとしてデザインしたものや、コンセプトやビジョンといったブランドの本質を具現化、 図案化したものなどがあります。
VI(ビジュアル・アイデンティティ)
ACT 03. でも詳しく説明しますが、ビジュアル・アイデンティティとは、会社や店舗、商品や組織などのコンセプト、理念などを、ビジュアルの構成要素(ロゴ、使用する書体、色、写真、イラストレーション、レイアウトなど)で視覚的に表現した総体です。つまり、先ほどのロゴはこのビジュアル・アイデンティティの主要な要素の1つ、ということになります。
CI(コーポレート・アイデンティティ)
デザインの知識のある方がブランディングと混同されるのが、このコーポレート・アイデンティティ。コーポレート・アイデンティティは1930年代にアメリカからはじまり、日本では1970年から導入されたマーケティングの概念で、 企業の主観をベースにしたものです。
企業の理念、特性、事業内容、方針など経営にまつわる事柄を、企業の目線から社会に発信できるように体系化したもので、これは先ほどのビジュアル・アイデンティティも内包されています。コーポレート・アイデンティティの目的は「企業のメッセージを広く伝える」ということなので、そのゴールを目指したビジュアル・アイデンティティはもちろんのこと、「伝える」ことに必要な、スローガンやコピー(文章・文体の表現方法)などのビジュアル以外のコミュニケーション手段の体系化も重要な要素になっています。
ブランディングとの一番大きな違いは視点です。コーポレート・アイデンティティは企業の視点で構築されるので、消費者の視点で構築されるブランディングのようにターゲット・オーディエンスの設定はしません。
ブランディング
ブランディングとは、時代や環境、顧客ニーズを考えながら、企業/商品/サービスなどのもつ「らしさ=個性」を引き出し、価値をつくり上げ、お客さまに与える総合体験の全てにおいて正しく演出し、伝わりやすく魅力的にデザインすることです。
そして、ブランディングの最終目的は、「企業価値」を向上させ、お客様のロイヤリティを獲得すること。いわば、お客さまに信頼してもらい、ファンになってもらうことです。いままでは実質的価値(商品、サービス、品質、性能など)を向上させ、それを企業の視点から分かりやすいかたちにして(コーポレート・アイデンティティ) 発信していけば顧客ロイヤリティは獲得できていました。しかし、現在のようなモノが溢れている時代では、実質的価値を向上させることは「できていて当たり前のこと」とみなされ、そこで差別化を図ることが難しくなってきました。そこで起こるのが価格で差別化を図る価格競争。それでは品質を上げ、価格を下げるという不毛な戦いになってしまいます。
そうではなく、その企業の個性や特性を柔軟な視点で引き出し、時代やお客さまのニーズをふまえた上での新しい価値=情緒的価値(デザイン、ビジョン:環境対策、地域活性化や社会貢献など、商品・サービスを新しい切り口でみること)で他社と差別化し、実質的価値を含むすべてをお客様に伝わるかたちにすることがブランディングの醍醐味です。こうして他の企業にはない、自分だけの「個性や強み」を伸ばす価値の付け方をすることは、競争相手のいない/少ないマーケットで自分らしくビジネスができることにつながっていきます。
小山田 育
HI(NY)共同代表。クリエイティブ・ディレクター/アートディレクター/グラフィックデザイナー。NYの美術大学School of Visual Artsグラフィックデザイン科を卒業。MTV、ブランディング・エージェンシーのThe Seventh Artを経て2008年、HI(NY)を設立。One Show、Graphis、GD USAなど多数受賞。AIGA会員、NYアートディレクターズクラブ会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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