(本記事は、萩原 京二氏の著書『
なぜ残業を減らしたのに、会社が儲かるのか?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
労働時間MBO制度を導入するメリット
もはや導入しない理由がない10のメリット
前記事でもお伝えしましたが、労働時間の改善には3つのステージがあります。繰り返しになりますが、大切なことなのでもう一度お伝えしましょう。
第1ステージ:新しい制度やルールの導入
第2ステージ:現場での業務改革・社員の意識改革
第3ステージ:労働時間管理体制を整備する
「長時間労働の是正への取り組みを始めた」という企業でも、その多くが変形労働時間制や残業申請制度、ノー残業デー等を導入するなど、第1ステージで終わっているようです。
確かに、第1ステージは管理職なり上司なりが「労働時間改善のために新しい制度を始めた」と通達するだけなので、とても簡単にクリアできます。しかし、現場レベルが実行できる可能性は低く、取り組みが机上の空論に終わる例が散見されます。
そのために3つのステージが必要だと述べたのですが、それをさらに確実なものにするために必要なのが、労働時間MBO制度の導入なのです。
「労働時間の問題を解決するだけのために」と思うかもしれませんが、前記事で「労働時間の改善は会社の生産性及び業績の向上につながる」とお伝えしたことを思い出してください。社員の過重労働を減らすだけではない大きな効果をもたらすのが労働時間の改善であり、労働時間MBO制度の導入だということを改めて認識していただきたいと思います。
そのためにも、ここで、労働時間MBO制度の導入で得られる10のメリットをご紹介しましょう。
①労働時間を組織的に管理できる
社員個人ごとに労働時間の管理はできていても、全社として、あるいは部門別などに集計した労働時間のデータが管理されている会社はほとんどありません。ましてや、それを社員に公開している会社は皆無でしょう。
労働時間MBO制度を導入して、会社が労働時間をどのように改善しようとしているのかを具体的な数値目標として示し、その実績データを全社員に公開することができれば、経営の透明性が高まります。
②データ分析によって問題点が明確になる
労働時間MBO制度では、残業時間などのデータを収集して、その分析を行います。たとえば、残業が多い順に社員を並べる、部門ごとの残業時間を比較するなどして、残業が特定の部門や一部の社員に集中していないか等をチェックします。そうすることで、仕事の配分を再検討することもできるし、管理者のマネジメントに問題があるのなら、改めて管理者の教育を行うこともできます。つまり、データを収集・分析することで問題点がはっきりし、解決策を導くことが容易になるのです。
③レコーディング効果で残業時間が削減できる
「レコーディングダイエット」という減量法をご存じでしょうか。これは自分が食べたものとその日の体重を正確に記録することで、自分の現状(体重)と行動(食事の内容)を改めて認識し、問題点を痛感することによって自然と日々の生活習慣が改善され、減量に成功するという仕組みです。労働時間も、レコーディングダイエットと同様に「記録」することで当初の計画と実績のズレを毎月確認・修正することが可能になります。業務改善や意識改革が行われるだけでなく、無駄な労働時間と経費の削減も可能になります。
④生産性が向上する
労働時間と生産性との関係は再三述べてきましたが、残業を減らすことで仕事の効率が高まり、しかも集中して取り組めるようになります。それは残業代の削減をするだけでなく、生産性を向上させるためにも有効です。
⑤自律型人材が育成できる
労働時間MBO制度では、目標は会社や上司から一方的に押しつけられるのではなく、自分で決定します。さらに面談制度によって上司に進捗状況を報告し、共に改善策を考える……というように、労働時間の改善に自ら積極的に関わるようになります。
これにより「自分で考え・改善する」という姿勢が生まれ、結果的に自律型の人材を育てることにつながるのです。
⑥管理者のマネジメントスキルが向上する
労働時間MBO制度を導入してメリットが得られるのは一般社員だけではありません。部下の労働時間を記録し、考察し、検証し、さらに面談制度で適切な指導を行うことで、上司としてのマネジメント能力を飛躍的に伸ばすことができます。つまり、労働時間MBO制度は、管理者の教育ツールでもあるのです。
⑦社内コミュニケーションがよくなる
前述の通り、労働時間MBO制度は上司と部下による面談制度がポイントになります。定期的に話し合い、お互いに改良点を見出すという時間を共有することにより、自然と風通しのよい、何でも話し合える関係性が醸成されます。また、面談に備えて上司が部下の働きぶりや心身の健康状態をよく観察するようになるため、上司は部下のささいな変化に気づきやすくなります。そして、部下はわずかな変化に気づいてくれた上司に対する信頼感が増すという好循環が生まれます。こうして、社内のコミュニケーションが改善されるのです。
⑧組織として目標達成ができる仕組みができる
労働時間MBO制度は、会社としての労働時間改善目標を部門ごと、個人ごとに展開して、全社員が一丸となって目標を達成する仕組みです。たまたまテーマが労働時間の改善というだけであって、会社の目標を組織的にブレイクダウンして実行に移す仕組みに他なりません。
したがって、この仕組みによって労働時間改善の目標を達成することができるようになれば、その他のテーマにも応用ができるのです。
ここで、人事制度で導入されている一般的な「目標管理制度」と「労働時間MBO制度」の違いについて少しご説明をしておきましょう。
たとえば、営業部門においては「売上〇〇円」という目標が設定されることが多いでしょう。その数字(成果目標)を達成するために、やるべきこと(行動目標)が設定されます。
しかし、営業部門の売上というのは、本人の努力だけではどうにもならないことがあります。なぜなら、「顧客の状況変化」や「競合の動向」「市場環境の変化」といった不確定な要素があるからです。いかに本人がやるべきことをやった(行動目標の達成をした)としても成果につながらない場合もあるのです。
このようなケースで人事評価を行う場合には、「成果評価」だけでなく「プロセス評価」が行われますが、プロセスの評価を正確に行うことは難しいのが現実です。目標管理制度の運用が難しいといわれているのはそのためです。
しかし、「労働時間MBO制度」における評価は簡単です。なぜなら、労働時間の改善や有給休暇の取得については、不確定な要素が少ないからです。自分が働く時間や自分の休暇取得に関することですから、ある程度は自分でコントロールすることが可能です(突発的なトラブル対応などの場合は除きます)。
ですから、目標管理制度の運用がうまくいっていない会社は、まずは「労働時間MBO制度」の導入をお勧めしたいと思います。「労働時間MBO制度」の運用ができないようでは、人事評価制度の目標管理の運用などできるはずがないでしょう。
⑨職場環境が改善され、社員の定着率がアップする
労働時間MBO制度の導入は、会社が長時間労働の是正に真剣に取り組んでいるという証。また、面談制度により上司と部下のコミュニケーションが円滑になり、風通しのよい人間関係が保てるようになると、上司に対してはもちろんのこと、会社に対する信頼感も増していくでしょう。そして、社員一人ひとりの会社に対するエンゲージメントが高まり、「この会社でずっと働き続けたい」という意識が生まれます。その結果、社員の定着率がアップするのです。
⑩優秀な人材を採用することができる
新卒で入社した会社に定年まで勤める時代とは異なり、今は入社数年で転職することも珍しくなくなりました。転職市場の中心となる若い世代では、会社の業績よりも労働条件(労働時間や福利厚生)を厳しくチェックする層が出始めています。それほどまでに彼らは過重労働を、そしてブラック企業を避けたいと思っているのです。過労死、自殺者が連日メディアを賑わせる時代、どのような労働条件で働くのかは、彼らにとってまさに生死に関わる問題なのです。
そうした中で、労働時間の問題に積極的に取り組んでいる会社は、彼らから歓迎されます。社内の風通しが良く、社員のエンゲージメントが高く、定着率が良い会社は、彼らの注目を集めます。さらに、労働時間の実態を公開するようになれば、「ホワイト企業」という評価を得ることは間違いありません。
その結果、優秀な人材がこぞって入社を希望するようになり、人手不足・人材不足とは無縁になるのも夢ではありません。
萩原 京二(はぎわら・きょうじ)
労働時間MBOコンサルタント協会代表。株式会社全就連代表取締役。社会保険労務士法人全就連代表社員。1998年社会保険労務士として開業。社員数300~1000人規模の中堅企業のコンサルティングを専門とする。2017年より「労働時間の改善」に関する研究を開始し、「労働時間MBO制度」「労働時間マネジメント評価制度」など独自のコンサルティング手法を考案。「労働時間MBOコンサルタント養成講座」を開催して、そのノウハウを全国の社会保険労務士に提供している。2018年、「労働時間MBOコンサルタント協会」を設立して代表に就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※画像をクリックするとAmazonに飛びます