(本記事は、萩原 京二氏の著書『
なぜ残業を減らしたのに、会社が儲かるのか?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
労働時間MBO制度とは?
組織目標と個人目標を連動させる
本記事をお読みいただいている方であれば、「MBO」という言葉はご存じでしょう。
MBO(Management by Objectives)とは、1950年代に経営学者のピーター・ドラッカーによって提唱された組織マネジメントの手法で、目標管理制度といいます。具体的には社員個人、またはグループや組織単位で業務目標を設定し、その目標に対する達成度合いを評価する仕組みを指します。
それぞれが設定した目標は、企業の経営戦略とつながっている必要がありますが、だからといって経営側から押しつけられものではなく、個人的な目標とも合致していることが重要になります。
人材育成という観点から考えれば、簡単に達成できる目標ではなく、個人と組織の成長につながる目標が設定されることが理想的でしょう。
目標を立てて、どれくらい達成したかという度合いを評価するのが基本ですが、企業によっては評価を処遇(昇給や昇格)とは結びつけず、人材育成の仕組みの一環として導入するケースも多いようです。
社員が自主的に行動できるようになる
MBOを導入する目的は、社員に目標を立てさせて、その達成に取り組ませることだけではありません。目標を達成するプロセスを通じて、社員を成長させることに大きな意味があるのです。それだけではありません。上司と部下が話し合い、部下の目標を上司がサポートすることで、企業の経営戦略とリンクした個人目標の設定が可能になります。こうすることで部下が目標達成へ向けて行動するようになり、しかもその行動は企業の経営戦略に合致しているのです。つまり、MBOを導入することで、組織目標と個人目標を連動させることができ、社員が自主的に行動するようになるということです。これがMBOを導入する最大のメリットだと言えるでしょう。
本記事では、この経営管理手法であるMBOを労働時間の改善に応用する方法をご紹介します。それが「労働時間MBO制度」です。
労働時間MBO制度の3つのポイント
個人の目標と会社の目標を同時に実現するには
MBOでは、各担当者に自らの業務目標を設定させ、さらに申告させることに大きな意味があります。その理由は、上からの押しつけでなく、本人に任せて目標を立てさせることでモチベーションが高くなり、結果としてより大きな成果に導くことができるからです。
これは受験でも同じことが言えます。たとえば学校や塾の教師や親から志望校を決められても勉強に身が入らなかったのが、自分から「ここに行きたい」と決めると俄然やる気が出てぐんぐん学力が伸びていくものです。
つまり、人は周囲から押しつけられたことよりも、自ら選択し、決定したことに対して意欲的に取り組むということ。そして、そのほうが成果につながりやすいのです。
さて、労働時間の問題です。
ここまでお伝えしてきた通り、「労働時間の削減」は企業の経営課題です。必ず実行しなければなりません。しかし、上司から部下に残業禁止だと伝えたところで、本人にその気がなければ通達は有名無実のものとなってしまいます。
そこで導入したいのが、労働時間MBO制度です。
上司と部下が共通の目的意識を持ち、意欲的に取り組めば、労働時間の削減も現実のものとなります。
では、どのようにすればスムーズに労働時間MBO制度を導入し、定着させ、そして成功へと導くことができるでしょう。
そのためには、決して外すことができない「3つのポイント」があるのです。
一つずつ解説していきましょう。
①数値目標の設定
何かを成し遂げようとするならば、どんなことであろうと最初に明確な目標を立てなければ、それを達成することは難しいでしょう。それは、「大学に行きたい」という願望と「〇〇大学の△△学部に入る」という目標を比べた場合、どちらの実現可能性が高いかを考えてみてもわかると思います。目指しているものがはっきりしない限り、それを手に入れることはできないのです。
ですから、労働時間を改善するといっても、漠然と「残業時間を減らす」「有給休暇を取る」という目標では、それが絵に描いた餅になる可能性は高いでしょう。確実な目標達成を狙うなら、「月の残業時間を40時間、理想は38時間に抑える」など、具体的な数値を挙げて目標を立てることが重要です。
数値を掲げるというのは、目指すべきゴールを明確にするということ。上司と部下が話し合い、自分たちがどのような数値を目指すのか決めましょう。
②計画と実績の管理
具体的かつ明確な目標を設定し、目標を達成するための綿密な計画を立て、それを実行したとしても、必ずしもその目標が達成できるとは限りません。突発的な出来事があったり、スムーズに事が運ばなかったり、計画通りに行かないことは、当たり前のように起きるものです。
これは労働時間管理でも同じです。
そんなときに大事なことは、計画とのズレを早期に発見して、すぐに軌道修正を図ること。そのためにも、計画と実績の管理をしっかりと行うことです。この管理を怠っているとズレが生じたことに気づかず、気づいたときにはもはや修正不可能な状態に陥ってしまっていることもあります。そうなってしまうと、やる気を失ってしまい、結果として目標が達成できないということになります。
そういう意味では、計画と実績を管理する作業は、「モチベーション管理」と言い換えることもできるでしょう。しっかりとした進捗管理を行うことで、目標は実現可能なものへと近づいていきます。
③上司と部下の面談制度
労働時間MBO制度を成功させるためには、上司と部下との親密なコミュニケーションが鍵となります。そのためには、上司と部下が定期的に話し合える場を設ける必要があります。
仕事の進捗状況、労働時間の実態、精神状態、そして困っていることなどがないかを含め、今、部下がどういう状況にいるのかを把握するために欠かせないのがマン・ツー・マンで話し合う「面談制度」です。
上司として、いつでも話を聞くという姿勢を持ち、常に門戸を開いている姿勢でいるのが重要であることは言うまでもありません。しかし、「何かあったら」という待ちの態勢ではなく、月に1回、決まった日に面談を行うなど、「制度」として組み込んでしまうほうが確実です。なぜなら、仕事が忙しくなり、当初決めていた数値目標が達成できなくなった部下は、上司に相談しづらくなるからです。そうなると、長時間労働をごまかすためにサービス残業が増えるなど、問題が生じかねません。
そこで面談を制度にしてしまえば、定期的に上司と話すことになり、計画の進捗状況などを報告しやすくなります。
部下とのコミュニケーションを円滑にするためには、向こうから相談してくることを待っているのではなく、上司からのアプローチが不可欠なのです。
萩原 京二(はぎわら・きょうじ)
労働時間MBOコンサルタント協会代表。株式会社全就連代表取締役。社会保険労務士法人全就連代表社員。1998年社会保険労務士として開業。社員数300~1000人規模の中堅企業のコンサルティングを専門とする。2017年より「労働時間の改善」に関する研究を開始し、「労働時間MBO制度」「労働時間マネジメント評価制度」など独自のコンサルティング手法を考案。「労働時間MBOコンサルタント養成講座」を開催して、そのノウハウを全国の社会保険労務士に提供している。2018年、「労働時間MBOコンサルタント協会」を設立して代表に就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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