(本記事は、萩原 京二氏の著書『
なぜ残業を減らしたのに、会社が儲かるのか?』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
労働時間を削減する数々の工夫
多くの企業が始めている実例から学ぶ
法改正により、長時間労働を是正するのは企業の義務となりました。しかし、たとえそれが正当なものだとしても、労働時間が短くなれば経営にとっては大きなインパクトがあります。生産量が減少する、受注がさばけない、納期に間に合わないといった問題が生じるかもしれません。結局、これまで通りに残業をして対応せざるを得ない。そうなると、「働き方改革」も絵に描いた餅になってしまいます。
しかし、そうした中でも「労働時間の改善」に積極的に取り組み、具体的な成果を出している企業もあるのです。それらの企業は、どのような取り組みで不可能を可能にしたのでしょうか?
そうした取り組みを知ることで、自社の労働時間改善にも役立つはずです。
それでは、具体的な事例をご紹介しましょう。
営業時間を見直し、過重労働を防ぐ
かつて日本には夜8時を過ぎて営業している店舗はほとんどありませんでした。店が開くのも早くて9時、それが当たり前の時代があったのです。ところがそこに誕生したのがコンビニエンスストア。朝7時から夜11時までなど、長時間の営業時間は画期的だったと言えます。日本初の24時間営業のコンビニエンスストアが誕生したのは1975年。以来、コンビニエンスストアは24時間営業が当たり前となり、ほかの業種でも24時間営業が取り入れられるようになりました。一時は24時間営業の衣料品チェーン店もありましたが、東日本大震災以降その数を減らしていきます。そして、深夜の時間帯をひとりの社員で回すワンオペ営業、過重労働に過労死などが社会問題となり、24時間営業という業態そのものが見直されることになったのはご存じの通りです。その先がけとなったのが、「ガスト」や「ジョナサン」を展開するすかいらーく。深夜営業を大幅に縮小し、24時間営業を行っていた1000店舗のうち750店舗について早朝7時から深夜2時までの営業へと転換しました。それに続くように「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングスも24時間営業を廃止、日本マクドナルド、牛丼チェーン店の「すき家」「吉野家」も深夜営業を行う店舗を縮小しました。さらに「日本郵便」も「ゆうパック」の差し出し、受け取りができる「ゆうゆう窓口」の24時間対応の廃止を進めています。
これらの企業が深夜営業を廃止・縮小した理由に、社員の過重労働の問題がありました。深夜帯に稼動できる社員やパート、アルバイトの確保が難しくなっているという人手不足も、営業時間短縮を後押ししています。
では、深夜営業を廃止し、営業時間が短縮された店舗の業績はどうなったでしょうか。営業時間が短くなったのだから業績が悪くなって当然、と思うところですが、むしろ収益が改善されたケースが大半だといいます。なぜなら、深夜残業には次のようなデメリットやリスクがあったからです。
・人件費やコストが増える
深夜帯は人手不足のため賃金を上げなければならず、また深夜手当をつけなければならないため割高。しかも業種によっては警備員の配置、自家用車通勤のための駐車場確保などコスト高になり、経営を圧迫していた。
・深夜営業のニーズが減り、客が減少
地域差もあるが24時間営業を利用する客が減り、人件費などのコストに対して採算が合わなくなった。
・サービスの質が低下することにより企業イメージがダウン
人手不足のため深夜帯の人材を選り好みできる状況ではなくなっている。そのためサービスの質の低下を招いている。現代はSNSの急激な発達により、一つの店舗で起きたトラブルが瞬時に拡散され、企業イメージを大きく傷つける例があまりにも多く存在する。一度拡散されたネガティブなイメージを回復するのは困難で、経営に計り知れないダメージを与えかねない。
24時間営業を廃止しても収益が落ちることなく、むしろ「ホワイト企業」という評価を得たという例もあることは見逃せません。
テクノロジーを活用し、業務を効率化する
さまざまな技術革新により、これまでは人間が行っていた作業を代行できるテクノロジーが次々と開発されています。たとえば煩雑な発券業務を端末で行う映画館や劇場は珍しくなくなりました。また接客をロボットが行うホテルやバーが誕生して話題になりました。いずれすべての業務をロボットが行うようになり、人間の社員が不要になるかもしれません。こうした技術革新を担っているのがAI(Artificial Intelligence =人工知能)です。
以下の事例をご覧になれば、あらゆる業種にこうしたテクノロジーが活用されていることがわかります。
・小売業
電子決済によるキャッシュレスでのレジ処理はすでに多くのコンビニで導入されているほか、セルフレジを導入することによりレジ要員の削減に成功しているスーパーも多数。アプリをダウンロードしたスマホを入店時にかざすだけで、後はレジも不要という小売店(米・シアトルのAmazon Go)も誕生している。
・サービス業
フロントにロボットがいてチェックイン・チェックアウト業務を行うホテルや、ロボットが飲み物を作るカフェが誕生。飲食店ではタッチパネルによる注文で、「なかなかオーダーを取りに来ない」という人手不足による客側のストレス解消に成功。
・運送業
人手不足が深刻な運送業では、先頭の1台のみ人が運転し、後続車は自動運転による無人車両が隊列走行する技術が進んでいる。すでに国土交通省の認可を得て実用化が近いといわれる。
・介護業界
運送業と並び人手不足が深刻な介護業界では、介護従事者の不足解消と負担軽減のために介護ロボットの導入が進んでいる。移乗、移動、入浴、排泄、見守りなどの日常生活支援に取り組んでいる。
・事務業務
ホワイトカラーの業務で導入が始まっているのがロボットによる業務自動化、すなわちRPA(Robotic Process Automation)。RPAは、日々パソコンに向かって行う煩雑かつ単純な作業、たとえば請求書処理、経費精算、データ入力、入力不備チェックなどを代行する。これにより、付帯業務による残業を削減する効果が期待できる。
こうしたテクノロジーを活用することで、労働時間が削減できる時代なのです。ですから、「○○だからできない」ではなく「どうすればできるか?」を考えなければなりません。
「残業を削減すると売上が減少する」「人手のいる業務だから労働時間の削減は無理」「専門的な業務だから労働時間の削減は無理」というのは、もはや言い訳に過ぎないのです。
萩原 京二(はぎわら・きょうじ)
労働時間MBOコンサルタント協会代表。株式会社全就連代表取締役。社会保険労務士法人全就連代表社員。1998年社会保険労務士として開業。社員数300~1000人規模の中堅企業のコンサルティングを専門とする。2017年より「労働時間の改善」に関する研究を開始し、「労働時間MBO制度」「労働時間マネジメント評価制度」など独自のコンサルティング手法を考案。「労働時間MBOコンサルタント養成講座」を開催して、そのノウハウを全国の社会保険労務士に提供している。2018年、「労働時間MBOコンサルタント協会」を設立して代表に就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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